奥飛騨・高山【一次産業+観光】×エネルギー
~フォーラム&ツアー~
一般社団法人日本サステイナブルコミュニティ協会(代表理事会長:増田寛也・東京大学大学院客員教授、略称:JSC-A)は、地熱、未利用木材、水力など多様な再生可能エネルギーを活用した発電事業や、温泉を利用した錦鯉やスッポンの養殖に積極的に取り組む岐阜県高山市の奥飛騨地区で7月2-3日、「奥飛騨・高山フォーラム&ツアー【一次産業+観光】×エネルギー」を開催しました。
【7/2(火)フォーラム 場所:奥飛騨総合文化センター】
初日のフォーラムには岐阜県、高山市、地元の農協、金融機関、中部電力、地熱・バイオマスの地域発電会社などの関係者が登壇し、再エネによる地域創生の可能性を提言しました。
▽開会挨拶 杉山範子(日本サステイナブルコミュニティ協会代表理事副会長/名古屋大学大学院特任准教授)
今回の催しは奥飛騨・高山で先進的に取り組まれている温泉、地熱、未利用木材、水といった再生可能資源を活用して、地域の魅力向上と活性化に生かすにはどのようにしたらいいか――について地元の森林関係者、発電事業者、温泉観光業の方々をはじめ、国、岐阜県、高山市といった行政の方も含めてこの地域の未来を考えて行くのが目的です。
▽歓迎挨拶 国島 芳明(高山市長)
2010年に市長に当選して以降、自然エネルギーの活用で日本一の街になることを訴えてきました。次の世代に残していくべきものは先人が築いてきた地域の文化と、豊かな自然を傷つけずに残していくことが大事だと考えています。今回のフォーラムが残すべきものを考える機会になればと願っています。
<基調講演>
岩田 則子 (中部経済産業局資源エネルギー環境部 部長)
『最近のエネルギー政策について』
昨年作成された第5次エネルギー基本計画は、①資源自給率、環境適合、国民負担抑制に安全最優先を加えた「3E+S」を基本とする②温室効果ガスを2030年には2013年度比26%削減、2050年には80%削減を目指す③再生可能エネルギーを主力電源とするため2016年度で15%だった電源構成比を2030年には22~24%まで高める――ことを基礎に作成しました。
FIT(固定価格買取制度)認定容量のうち運転開始済みの割合は51%にとどまります。他方、FITは賦課金という形で国民にも負担を強いており、その負担をいかにして減らしていくかが大きな課題となっています。今後は、未稼働の太陽光発電については調達価格の減額や運転開始期限の設定などで早期運転開始を促していくとともに、調達価格目標の前倒しや入札対象範囲の拡大によって、コストダウンの加速化に取り組んでいきます。
村上 敦 (環境コンサルタント)
『ドイツの事例から学ぶ次世代エネルギーによる地方創生』
日本では団塊ジュニアの第2次ベビーブーム(1971~74年)以降人口減少が確実視されていたのに国は何の対策もしませんでした。それが現在の地方の疲弊を招いています。
高山市を見たとき、既得権益・高齢者層には貯蓄と域外から入る年金がありますが、地域に良い投資先がないため、「貯金→銀行→国債」という流れで結局は外部に資金が流出しています。こうした既得権益者、高齢者の金を地域内の有効な建設、運輸、エネルギー、インフラ、金融、IT系に投資させることが地域経済に効果的に働きます。ドイツの再エネ電力は市民が32%、農民が11%、地域の中小企業が24%を投資しています。日本では都市部の企業が地域に入り込んできており、その“植民地”にならないためには再エネ企業に地元が投資し、地域の人材を送り込み育てることが鍵を握ります。
<取組み紹介>
辻 博之 (岐阜県商工労働部新産業・エネルギー振興課 課長)
『岐阜県次世代エネルギービジョン』
「持続可能で活力に満ちた清流の国」の実現を目指し、「再生可能エネルギー創出プロジェクト」「エネルギー地産地消プロジェクト」「次世代エネルギー使用定着プロジェクト」の3つを重点プロジェクトに活動しています。
取組み紹介②
中谷 仁 (高山信用金庫 営業統括部 営業推進課 コンサルティングチーム オフィサー)
『地元主導型再エネ事業と地域金融機関が果たす役割』
奥飛騨温泉郷5つの温泉地宿泊者数は平成10年に95万8000人だったのが平成30年には54万7000人と減少している。こうした中で地元主導型再エネ事業が始まり、社会的意義と経済的利益の追求が求められている。預金者から預かったお金を融資する間接型金融なので、各種リスクの全体把握とそのヘッジ策を考え、事業が継続できるよう経営者とともに歩みたい。
細江 和久 (飛騨農業協同組合 金融共済担当常務)
飼本 勝彦 (飛騨農業協同組合 営農推進対策室営農企画課 課長)
『小水力発電による地域貢献活動~飛騨市数河地区の事例紹介~』
「JAひだ」では飛騨市古川町数河で発電能力49.9kWという小水力発電施設を稼働している。数河開拓用水という農業用水を活かした発電で国や県の支援を受けて実現した。発電した電気を電力会社に売り、その収入を活用して用水路補修管理や土地改良など農業基盤の整備を進めている。また荒廃農地を復活させて竹の子を栽培し、缶詰に加工して村おこし特産品として販売している。
清水 満 (奥飛騨水力発電株式会社)
『地域貢献型小水力発電の特長』
奥飛騨水力発電は水力開発で豊富な実績を持つシン・エナジーと日本発電が連携して、適正ルールを遵守して乱開発を防ぎながら開発するのを旨としている。奥飛騨地区は日本でも有数な高密度小水力エリアである。地域貢献型水力開発を目指し、①地域の利害関係者がプロジェクトの大半を所有する②意思決定はコミュニティに基礎を置く組織が行う③社会的・経済的便益の多数は地域に分配――を原則にしている。これを実践するため、売電収益の一部を「地域振興基金(仮称)」として地域に還元する方針にしている。
小林 正輝 (奥飛騨自然エネルギー合同会社)
『恵まれた温泉資源を次世代に継承』
奥飛騨温泉郷の家庭では、半分以上のエネルギーを温泉資源で確保している。温泉は浴用、暖房、温水プール、野菜栽培、魚介類養殖、温泉卵、ヒートポンプの一次熱利用など多岐の用途がある。温泉の維持管理には相応の経験や司式と技術が必要で、数少ない後継者がそれを習得するのは難しく、奥飛騨地区として維持管理会社を作ることが温泉郷維持のカギを握る。
<パネルディスカッション>
「日本版シュタットベルケ構築に向けて」
パネリスト :國島芳明・高山市長
村上敦・環境ジャーナリスト/コンサルタント
坂井晃・中部電力再生可能エネルギーカンパニー企画室長
谷渕庸次・飛騨高山グリーンヒート合同会社代表取締役社長
モデレーター:乾正博・日本サステイナブルコミュニティ協会副代表理事/シン・エナジー社長
▽閉会の挨拶 杉山範子(日本サステイナブルコミュニティ協会代表理事副会長/名古屋大学大学院特任准教授)
京都議定書からパリ協定に代わり、時代は低炭素から脱炭素の時代に目まぐるしく変わっています。エネルギー転換を果たすには私たちの価値観も変えていく必要があります。実は今地方から生活スタイルの転換、エネルギーや価値観の転換が始まっているのではないかと感じています。その流れを推し進めるには地元の人がどれだけ関わり、危機感を感じ、本気スイッチが入るかどうかにかかっています。そして様々なことに女性がかかわり発言していくことが、新しい時代を作ります。全国に先駆け「奥飛騨版生存権提供会社」がいつの日かできることを楽しみにしています。