第4回 府川浩

地方創生コラム 第4回
「時代の中の教訓」

 信じていたものが、そして信じようとしていたものが、音を立てて崩れていくことがある。
 「世界一安全」と言われていた日本の原子力発電。2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の東日本大震災に伴う大津波を受けて、福島第一原子力発電所がメルトダウンを起こし機能を停止、東北から関東にかけて放射性物質をまき散らした。非常用電源設備が海水に浸かり、動かなくなったことが大きな原因という。「絶対大丈夫」ということはありえないことを、私たちに教訓として残した。
 今年9月6日、北海道の胆振(いぶり)東部を襲ったマグニチュード6.7の地震で道内最大火力発電所である苫東厚真火力発電所ではボイラー配管部分などが損傷し、停止してしまった。こうした時のために本州から北本連系線を通して緊急送電する仕組みを作っていたが、それを加えても道内で必要とする電気の需要とバランスできるだけの電気を供給することが出来ず、北海道の多くの地域が一斉に停電になる「ブラックアウト」に陥り、その余波が何日にも続いた。日本の電力会社がそんな事故を起こすわけがないという信用が吹き飛んでしまった。

 自立分散型のはずだった太陽光や風力などの再生可能エネルギーを使った発電所はこういうときこそ大活躍するのかと思っていたら、連動して機器の運転を停止してしまった。「自立」という機能を生かすにはどうしたらいいのか考えさせられる出来事でもある。 電力業界では2020年4月に電力システム改革の一環として「発送電分離」が行われる。これを1つの契機に電力業界の再編が進むのではという見方が浮上している。すでに東京電力と中部電力は両社の火力事業の統合を目指して動いており、現在10社ある電力会社はガス会社を巻き込んでいずれ3つぐらいのグループに再編されるといわれる。再編が「安全性」と「地球環境」を高める力となることを期待している。

 同じエネルギー業界の石油元売り会社では、1980年代前半に15社あった元売り会社が再編を重ね、現在までに4社に集約された。2019年4月には出光興産と昭和シェル石油の経営統合により、JXTGエネルギー(ENEOS)およびコスモ石油を加えた3社だけになる。電気自動車の普及、再生可能エネルギーへの転換など時代背景の変化が再編を促した。電力業界が石油元売り業界と同じ道を歩む可能性は十分にあると考えている。
 今、人気のある企業、商品、サービスが20年後、30年後もしっかりと存在しているかどうかは分からない。長い間就職人気企業の上位を占めてきた都市銀行の人気が下がってきたのもその1例。時代の流れを見極めないと、企業も商品もサービスもあっという間に消えて行ってしまう。

(元経済紙記者 府川浩)