「七本の矢」が導くSDGsの世界

地方創生コラム 第15回
「七本の矢」が導くSDGsの世界

 戦国武将の毛利元就が3人の息子に「1本の矢では折れてしまうが、3本の矢を束ねると簡単には折れない」として3兄弟が力を合わせることの大切さを説いたという書状「三子教訓状」。
 バイオマス発電に関わりを持つ7つの団体が今年7月に東京の国立オリンピック記念青少年総合センターで開催した「7団体共同提言『基本的考え方』記者発表」には専門紙5社に加え、共同通信社、毎日新聞社という大手報道機関が取材に訪れた。団体でも協力し合うことが新しい力を生むことを改めて教えてくれた。
 記者発表後の記念フォーラムには朝日新聞社、東洋経済新報社、日刊木材新聞社も取材に駆けつけてくれた。設立後1年半の日本サステイナブルコミュニティ協会(JSC-A)だけではこれだけの報道機関を集めることはできなかっただろう。まさに「七本の矢」の力と言える。

 今回、共同提言作成に加わったのはJSC-Aのほか、日本有機資源協会、バイオガス事業推進協議会、日本木質バイオマスエネルギー協会、日本シュタットベルケネットワーク、NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク、NPO法人農都会議の7団体。

 共同で国に提言を出そう、という話は2018年後半に持ち上がり今年に入ってから数カ月に1度の頻度で話し合いが重ねられた。もちろんトントン拍子で話が進んだわけではない。日本有機資源協会のように政府が進めるバイオマス産業都市構想の事務局を務める団体がある一方、JSC-Aのように民間企業が主体となりつつ地方自治体を特別会員としている団体もあり、立ち位置は微妙に異なるからだ。
 その7つの団体がともかくもまとまったのは、温室効果ガスを多く排出する化石燃料から、バイオマスなど再生可能エネルギーに電源を移行させて地球環境を守り、間伐材などの地域の資源を使うことで地域経済を循環させて豊かにさせることをよく知っているからだ。そして1つの団体だけではいくら声を上げても国を動かすことは難しいことを、これまでに何度も経験してきた。
 共同提言検討会のうち、今年4月19日に開かれた検討会に私もオブザーバーとして参加した。東京・中央区の日本有機資源協会会議室で開かれた検討会には、7団体から理事長や専務理事、事務局長クラスの方が合計で9人出席した。熱利用の推進、バイオマス発電事業の定着化とそれによる地方創生などの問題について活発な意見が交わされる中で、バイオマスという再エネ資源で、地球環境の保全と地方創生を同時に進めたいという強い思いが伝わってきた。

 検討会を重ねて作られたのが7月19日の記者発表の席で配布された7団体共同提言「地域型バイオマス推進に向けた基本的考え方」というA4片面印刷の資料だ。元総務大臣で東京大学大学院客員教授でもある増田寛也・JSC-A代表理事会長は「この共同提言にはSDGs(持続可能な開発目標)の考え方がちりばめられている」と説明し、「グローバルな視点からこれからの国の在り方を考え、提言することは大きな意味がある」と記者を前に高く評価した。
 確かに共同提言の文章はよく練られている。前文で「地球温暖化の防止と持続可能な地域社会づくり」「里地里山固有の生態系保全や国土保全」「分散型で地産地消のエネルギー」を謳い上げており、これはSDGs17の目標にある「11.住み続けられるまちづくり」「15.陸の豊かさも守ろう」「7.エネルギーをみんなに そしてクリーンに」の考えと一致している。
 また提言本文の「バイオマスボイラ等熱利用機器の標準化」「廃棄物系バイオマスからのエネルギーの回収ならびに残渣の資源循環の推進」についても、SDGs17の目標「9.産業と技術革新の基盤を作ろう」「12.つくる責任 つかう責任:持続可能な消費と生産のパターンを確保する」と考えが通じている。

 SDGs17の目標と意識的に一致させようとしてこの提言を作ったのではない。地球環境と暮らしやすい社会づくりを深く考えていたら期せずして同じ考えに行き着いたのだろう。共同提言の内容だけでなく、SDGsの活動が広まる前から同じ理念に沿った活動をしてきた団体もバイオマス7団体の中にはある。環境と地域創生を目指す意識の高さと活動の先進性を改めて評価したい。

                            (元経済紙記者 府川浩)