地方創生コラム 第20回
「地域を支える“価値”~値打ちをどう高めるのか~〈最終回〉」
前号では、筆者が愛媛・新宮(しんぐう)村の第3セクターで従事した村おこしで、核に据えた地元の新宮茶に大きな価値が芽生えるまでを紹介した。最終回の今号では、20年にもわたったその取組で、新宮茶の価値がどのようにして地域の価値に結びついていったのかを考えたい。
新宮茶は生産量に限りがあるため、それを原料にした抹茶大福が爆発的にヒットするに至っても、その多くの注文に応えられなかったが、村おこしの賜物であることを根気よく発信した結果、むしろその貴重さが大きな価値となり、数多くのファンを獲得した。
それまで断片的だったキーワードが次々と繋がって、抹茶大福がおいしい理由は新宮茶だから、新宮茶の香りが高いのは無農薬だからというストーリーが紡がれていった。無農薬栽培に日が当たることは、すなわち村民に日が当たることだった。あまりの希少性から、全国各地の出張販売では長蛇の列となって即完売、ネット通販では100倍ほどの抽選になるという状況は、ヒットから15年経過する今でも続いていて、その様子は村民向けの広報誌で逐一フィードバックしている。また新宮村に興味を持って直接訪れる人は以前はほとんどいなかったが、今では年間25万人にもなる。まず大消費地が抹茶大福を認め、長きにわたって新宮茶を高く評価していることは、村民の大きな自信に繋がった。15年前、ネット通販に踏み切った際にターゲットに据えたのは、東京や大阪など食の安全という観点から無農薬に敏感に反応する大消費地だったわけだが、このことが後々大きな意味を持ったことになる。
有名な話だが、日田市大山町のウメが超高級梅酒として仏ボルドーのワインフェスティバルでまず高く評価され、その評価を逆輸入することで大山町が注目されたのも同じである。それまで安価な輸入ウメに太刀打ちできず縮小する一方だった大山のウメが、正当な評価を受けて価値をつけ、生産農家が増えた好例だ。新宮茶もプロモーション開始から10年を経て、数名の農家が手間のかかる抹茶の生産に乗り出してくれた。このことは抹茶大福が爆発的なヒットとなった時以上に嬉しいできごとであった。その日のために地道な村おこしに取り組んできたのだから。
新宮村はこの20年でどれほどの“外貨”を獲得したであろうか。それを元手にすれば過去に失った地域循環経済の再興も夢ではない。地域という、手に取ることができないものであっても“価値”は確実にある。それをいかに見出すか、どこで正当に評価してもらうか。その視点がこれからの地方には必要ではないか。えてしてその価値は地元では当たり前すぎて見つけづらい場合が多いが、外からの目がそこに入れば、地域に眠る潜在価値として掘り起こすことが可能になる。内と外の相互の思いが地方を熱くするのだ。地方を取り巻く環境は厳しくなる一方だが、そこにしかないものを見失わず大切に育めば、暗い未来ばかりではないように思える。(終)
(シン・エナジー株式会社 ブランドコミュニケーション担当 平野俊己)